半導体用語集

引き上げ法

英語表記:pulling method

 引き上げ法は融液からの結晶成長法の最も代表的な成長法の一つである。単純な引き上げ法の原理図を図1に示す。るつぼに収容された原料はるつぼを囲むヒータによって加熱融解される。この時の融液近傍の温度分布は図1右に示したように、融液表面中心部を融点近傍温度として、上方ほど低く、外周ほど高くなっている。この融液表面へ上方から種子結晶を接触した後、種子結晶を上方(低温部)へ引き上げることにより結晶を成長させる方法を総称して引き上げ法と呼んでいる。このように引き上げ法では、るつぼ内部で成長させるブリッジマン法などとは異なり、結晶成長がるつぼ壁との接触なしに自由空間で行われる。このため、るつぼによる機械的応力を受けないので大型で高品質な結晶をえやすいという特徴があり、電子工業用材料として用いられるバルク結晶のうち調和融解する物質の大半がこの方法により成長されている。ただし、引き上げ法では、(1)結晶形状が自動的には決まらない、(2)(垂直)一方凝固成長法であるので添加不純物濃度が成長方向に沿って変化する、(3)融解すると融液が分解・蒸発しやすい物質、たとえば揮発性元素を含む化合物半導体を含む化合物半導体の成長には工夫が必要であるなどの問題点があり、種々の工夫がされている。

(1)結晶形状の制御
 引き上げ法における結晶形状は基本的には融液表面の温度分布で決定される。したがって、図に示したようなるつぼの中心を対称軸とした回転対称をしている場合には円形の結晶が成長する。しかし、現実には温度分布の対称軸と結晶引き上げ軸とを一致させることは難しく、また回転対称な温度分布を実現するのも困難であり、いびつな結晶が成長することになる。この問題を回避するため、るつぽおよび結晶引き上げ軸を回転する手法(CZ法)が一般的に行われている。このようにして円形にされた結晶の直径制御は引き上げ速度とるつぼ温度の制御により行われている(「CZ法」の項参照)。

(2)不純物分布の改善
 不純物を含んだ固体や二元固溶体金属などの融液からの成長では、成長固体の溶質濃度Csは融液状態の溶質濃度CLとは異なることが多く、その比 k=Cs/CLを平衡分配(あるいは偏析)係数という。初期溶質濃度CL₀から成長した結晶の初期溶質濃度Cs₀はkCL₀である。融液を追加しない一方向凝固成長では、たとえば k<1の場合、すなわち固体側の濃度が少なくなる場合には、成長が進行すると融液側に溶質が堆積していくので融液側の溶質濃度は徐々に増加し、それとともに固体側の溶質濃度も成長とともに増加することになる。固化率(固体モル数/初期融液モル数)gにおける固体内溶質濃度は、Cs(g)= kCL₀(1-g)^(k-1)で与えられる。電子工業用結晶としては添加した不純物の濃度が一定していることが望ましく、様々な対策が考えられている。原理的には成長によって融液から失われる溶質と溶媒をあらたに融液に追加すれば常に初期状態が保たれることになるので、いかなるgに対してもCsはkCL₀である。これを実現するための具体的方法としては、溶質濃度kCL₀の固体あるいは溶質濃度ゼロの固体と不純物を成長量と同量追加すればよく、この方法は連続チャージ法と呼ばれている。他の方法として、追加すべき材料をあらかじめ一回り大きなるつぼ内に融液として準備し、このるつぼ内に小孔を穿いた成長用のるつぼを浮かべ、これらの二つのるつぼの相対位置を制御し成長用融液の溶質濃度を一定にする方法(二重るつぼ法)がある。上記のように融液溶質濃度を制御する方法とは別に、大口径のるつぼ内の多量の融液から細くかつ長い結晶を成長することにより、成長長さに対するgの変化を低減してほぼ一定不純物濃度の領域を長くすることも行われている。
 
(3)化合物半導体の成長
 ほとんどの化合物半導体は揮発成分を含んでいるため、常圧の不活性ガス雰囲気下では融液組成を保つことが困難である。揮発成分の融液からの離散を防ぐ方法としては、高圧の不活性ガスを用いる方法(「高圧ブリッジマン法」の項参照)、蒸発成分の平衡蒸気圧を加える方法およびガラス状物質により融液に蓋をする方法がある。平衡蒸気圧を加える方法を引き上げ法に適用するためには特別な装置が必要である。すなわち、この方法では、一つのアンプル内に融液および蒸気圧発生用原料をそれぞれ別個に保持・加熱し、かつ融液および種子結晶用の可動軸をこのアンプル内に貫通させ、さらにアンプルの内と外で差圧が生じないように制御しなければならない。これらの方法に対してガラス状物質により融液に蓋をする方法は簡便であり、酸化ホウ素が化合物半導体に対して有効な液体封止剤であることが示されて以来、この方法(液体封止チョクラルスキー法)が主流になっている(「液体封止チョクラルスキー法」の項参照)。


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