半導体用語集

多層膜ミラー

英語表記:multilayer mirror

きわめて薄い(数~数10nm程度) の重金属元素層と軽元素層を交互にいく層も積層した人工格子膜を、ブラッグの反射条件にすることにより反射X線を干渉させ、近直入射(垂直に近い入射)の軟X線に対して高い反射率をえられるようにした軟X線ミラー。X線領域での多層膜ミラーは 1970年代の始めから開発されてきた。縮小投影光学系を構成するうえで鍵となるコンポーネントであり、縮小ミラー光学系および反射X線マスクに応用される。軟X線領域では、はとんどの物質において屈折率が真空の屈折率1にほぼ等しく、全反射が起こる臨界角は数度程度の斜入射となるため、直入射での反射率は0.1 %以下と非常に小さく、これまでのような縮小光学系は使用できない。しかし、斜入射光学系を使用するには収差が大きく、高解像度の光学系を実現することは難しい。そのため、近直入射で高い反射率がえられる多層膜ミラーが軟X線領域における高解像度光学系への道を拓く。多層膜ミラーはブラッグ反射鏡であるため、多層膜の周期構造により、特定の波長・入射角の組み合わせに対して高い反射率がえられる。たとえば、13 nmで広く用いられるMo/Si多層膜の場合、13nmにおける近直入射での反射のバンド幅は、0.5nm程度である。結像光学系に用いる場合は、各ミラーごとの入射角が異なるため、多層獏の周期長により波長マッチングをとる必要がある。入射角の違いを補債するため、ミラーの面内で周期長に分布を持たせたd-gradedの多層膜も用いられている。高反射率多層膜ミラーの開発が、縮小投影露光の波長選択を決定する大きな要因になる。多層膜の短波長化は、高解像度化ならびにレジスト透過率の向上をもたらすため、システム設計上は魅力的であるが、現状では、短波長域での多層膜の反射率は十分ではない。多層膜ミラーの反射率を低下させる要因としては、周期構造のピッチ誤差、界面での粗さによる散乱や化合物層の形成などがある。特に、界面粗さによる反射率の低下は、波長が短くなるほど、近直入射になるほど顕著になり、近直入射では、11~13nmで70%以上の反射率を持っ多層膜がえられているのに対し7nmでは20%、5nmでは10 %程度となる。EUVリソグラフィの波長適用領域を短波長化するには、短波長領域での多層膜の高反射率化が課題である。また、ミラー基板上に多層膜を形成する場合、内部応力によるミラー基板の歪を低減するように低応力化する必要がある。Mo/Si多層膜の場合、一般に数100MPaの圧縮応力になっている。たとえば、直径200mm、厚さ40mmの石英基板上に100MPaの応力の多層膜を0.2μm形成したとすると、多層膜の応力によりミラーの形状は外周で5nm変形することになる。ミラーに要求される加工精度を考えれば、多層膜の応力を低減する必要がある。


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