半導体用語集

多層膜

英語表記:multilayer

きわめて薄い(数nm程度)の重金属元素層と軽元素層を交互にいく層も積層した人工格子膜のこと。ブラッグの反射条件にすることにより反射X線を干渉させ、近直入射の軟X線に対しても高い反射率をえることができる。ブラッグ反射の条件により、多層膜の重金属元素と軽元素層の繰り返し周期(周期長d )と直入射角θ、波長λの間には以下の関係がなりたつ。
2dcosθ=λ
多層膜の材科の組み合わせは、軽元素の吸収端を利用し、13nmであれば Si、llnmであればBe、7nmであれはB系化合物、5nmであればCが用いられる。重金属元素は用いる波長域で吸収が小さく、組み合わせる軽元素との屈折率差がなるべく大きくなる材科が選択される。一般的には、W、Moなどの高融点金属が用いられる。組み合わせ例として、Pt/C、W/C、W/Siなどが有名であるが、縮小投影露光に用いる波長13nmの軟X線に対してはMo/Siの多層膜が有効である。層数60、ピッチ6.85nmの時、入射角が5度で反射率として68.7%がえられている。また、11 nmの波長に対してはMo/Beが有効であり、70.2%の反射率がえられている。多層膜の作製は、電子ビーム蒸着法、マグネトロンスパッタ法、イオンビームスパッタ法、分子線エピタキシー法などにより行われる。積層する層対数は13nmで30~40層対、5nmでは200層対になる。周期長の乱れは干渉条件に影響を与え反射率低下を招くため、オングストロームオーダの膜厚制御が要求される。多層膜ミラーの反射率を低下させる要因としては、周期構造のピッチ誤差、界面での粗さによる散乱や化合物層の形成などがある。界面粗さによる反射率の低下は、Debye-WaIIerファクタを用いて以下のように表わすことができる。
   R = Roexp(-2(2πσcosθ/λ )2)
ここで、Roは粗さ0の理論反射率、θは直入射角、λは波長、 σはrms粗さである。上式より、波長が短くなるほど、近直入射になるほど粗さによる影響は顕著になる。粗さの原因は多層膜を形成する基板の粗さに加え、重金属元素の結晶粒界に起因するものがあり、これらを低減することが重要である。化合物は、多層膜材科として用いられる軽元素が重金属元素と化合してその界面に形成される。これは、界面での屈折率差を低下させ、反射率を低下させるのみならず、多層膜の耐熱性にも影響を与える。Mo/Si多層膜の場合300℃以上になると界面にシリサイドが形成され、著しく反射率が低下する。化合物形成を押え耐熱性を向上する方法として、軽元素として化合物系の材科を用いたり、界面に非常に薄いバリア層を形成する方法か検討されている。



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