半導体用語集
点欠陥
英語表記:point defect
結晶における格子点の乱れが,1個ないしは数個の範囲で局所的に起こっているものを点欠陥という。点欠陥には,まず,結晶構成原子自身が正規の格子位置を占めていない固有欠陥(intrinsic defect)として,原子の抜けた場所である空格子点(原子空孔または単に空孔:vacancy),および格子の隙間に構成原子が入った自己格子間原子(self interstitial atom)がある。格子間位置には,正四面体位置(T)と六方位(H)がある。また,ボンドの中央に割り込んだ形のボンド中心位置(BC),および一つの格子点を二つの原子で分け合った分裂型位置 (S)を占める自己格子間原子がある。化合物半導体では,アニオン原子がカチオン格子位置を占めるか,あるいはその逆のケースであるアンチサイト欠陥も重要である。高エネルギー電子線照射により実験などの結果から,アンチサイト欠陥を除いて,こうした点欠陥は単独で存在するのではなく,固有欠陥同士または固有欠陥と不純物原子の複合体の形で結晶中に存在していると考えられている。
固有欠陥はドーパントなどの拡散現象と密接に関わっている。特に,自己格子間原子が置換型不純物を玉突きするような形で拡散するキックアウト機構の重要性が指摘されており,超格子構造の混晶化などと関係していると考えられている。
化合物半導体のフェルミ準位のピン止めやヘテロ接合界面でのバンドラインナップ,さらに高濃度ドーピンク時のキャリア密度飽和の問題を,点欠陥の生成エネルギーのフェルミ準位依存性によって統一的に説明するモデルを,ワルキビッツ(Walukiewicz)が提案している。ヒ素過剰の環境下にあるGaAsを例にとると,ガリウム空孔(アクセプタ型)とヒ素アンチサイト欠陥(ドナー型)が主要な点欠陥と考えられる。理論計算から,フェルミ準位が伝導帯側に近づくとガリウム空孔の生成エネルギーが下がり,一方,価電子帯側に近づくにつれてヒ素アンチサイトの生成エネルギーが下がる。すなわち,ドーパントとしてドナーを加えていくと,フェルミ準位が上がっていき,それに伴ってアクセプタとして働くガリウム空孔が発生してキャリア補償を起こしてしまう。アクセプタのドーピングの場合は,ヒ素アンチサイトが正孔を補償する。すなわち,二つの固有点欠陥がフェルミ準位の動きを妨げるように生成することを意味している(フェルミ準位の安定化)。
不純物原子も点欠陥の一つであり,格子位置に置き換わった置換型不純物と格子の隙間にはいる侵入型不純物とがある。通常のドーパントは特に高濃度でなければ置換位置に入るが,水素や重金属などは侵入型不純物として拡散する。GaAs中で酸素原子はAsの格子点からわずかにずれた位置を占める(off center oxygen)。不純物原子と固有点欠陥との複合体の代表的なものに,GaAs中のSiドナーとガリウム空孔の複合体(Si-VGa)があり,これも高濃度ドーピングを妨げる要因となっている。
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