半導体用語集

表面構造

英語表記:surface structure

 バルク結晶をある方向で切り出すと結晶の表面が現われるが,結晶表面は多くの場合,バルク結晶をそのまま切り出した仮想的な表面(理想表面)とは異なる原子配列を取る。これは,表面付近での電子状態がバルク結晶と異なる特徴を持ち,表面付近の電子状態と原子配列で決まる全エネルギーが最低になるように,表面原子の再配置が起こるからである。原子の再配置としては,原子層間の間隔が変化するなど原子位置のずれが生じる場合(表面緩和)や,結合の組み換えなどによる再配列が起こり表面の周期性が変化する場合(表面再構成)がある。
 半導体表面の原子では,結晶を形成していた化学結合が切断されるため,ダングリングボンドが高密度に存在する。ダングリングボンドは高いエネルギーを持つため不安定な状態にあり,多くの場合には,ダングリングボンドの個数が減るように表面における原子配列が変化して,エネルギー的に安定化する。理想表面において表面原子が正方形に配置する立方晶の(001)面においては,隣同士の原子が表面で新たな結合を作り二量体(ダイマー)を構成する。これにより,ダングリングボンドの密度は半減する。また,理想表面において表面原子が正三角形に配置する立方晶の(111)面や六方晶の(0001)面においては,3個の表面原子のダングリングボンドの上にもう一つの原子が重なった構造(アドアトム)を取り,結果として,アドアトム構造1個について2個のダングリングボンドが減少した構造が基本となる場合が多い。全表面でアドアトム構造が形成されると,ダングリングボンドの密度は半減する。
 化合物半導体では,2種類以上の元素が表面とその付近に存在するため,表面構造も多様かつ複雑である。代表的な化合物半導体であるヒ化ガリウムGaAsの(001)表面を例にとり,表面構造について説明する。この表面にはガリウム原子とヒ素原子のダングリングボンドが存在する。エネルギー的には,ガリウム原子のダングリングボンドは伝導帯付近に存在し,ヒ素原子ダングリングボンドは価電子帯付近に存在するため,ガリウムのダングリングボンドからヒ素のダングリングボンドへの電荷移動が起こり,エネルギーが安定化する。すなわち,エネルギーの低いヒ素のダングリングボンドは電子が完全に(ダングリングボンド当たり2個)満たされ,エネルギーの高いガリウム原子のダングリングボンドは完全に空になる。さらに,表面全体で考えて,電荷を外部から取り込んだり外部へ取り出したりする必要がないという条件をあわせて,電子数評価モデル:electron counting modelと呼ぶ。この条件をみたす表面構造では,多くの場合,表面の電子状態が半導体的になる。
 まず,全面がヒ素で覆われた(001)表面を考える。表面の隣同士のヒ素原子が表面で新たな結合を作りヒ素のダイマーを構成する。表面において,表面構造の周期性を単位構造の倍率として表わすことが多い。すなわち,表面を切り出しただけの理想表面を(1×1)構造として,ダイマーが形成され単位構造の大きさが2倍になった構造を(2×1)構造と表わす。ヒ素のダイマーでは,ヒ素原子1個当たり一つのダングリングボンドが残っていて,ヒ素のダングリングボンド当たり2個の電子が存在するため,表面に電荷が加わった構造となり電子数評価モデルが満たされない。そこで,ヒ素のダイマーが表面から取り除かれた構造(ダイマー欠陥)を考える。ヒ素のダイマー4個に一つのダイマー欠陥が存在する(2×4)構造を考えると,一層目のヒ素ダイマー3個と二層目のガリウム4個のダングリングボンドにより電子数評価モデルが満たされるようになる。実際の(2×4)構造では,一層目のヒ素ダイマー2個が欠け,二層目のガリウム2個も欠け,さらに三層目のヒ素がダイマーを形成した構造が現実の表面構造であることがわかっている。この構造も電子数評価モデルを満たす。逆に,ガリウムで覆われた(001)表面においては,この構造のヒ素とガリウムを置き換えた同様の構造となっている。さらにヒ化ガリウムGaAsの(001)表面では,表面における元素比がヒ素過剰からガリウム過剰まで連続的に変化することができ,表面における元素比に応じて10種類ほどの表面構造が知られていて,しかも,2種ないし3種の表面構造が混在する場合もあり,多様かつ複雑な表面構造を示す。これは,化合物半導体表面について一般的にいえることである。


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