半導体用語集

赤外分光法

英語表記:infrared spectroscopy

 分光法とは光を物質に照射し,その透過光や反射光などのスペクトルを測定して物質の詳しい情報を得る計測法のことをいう。半導体のエネルギー帯構造の決定を中心として固体物理学の研究分野で古くから用いられてきた手法である。半導体の場合,赤外領域では,基礎吸収,自由キャリア吸収,不純物吸収,格子振動による吸収などの多くの現象が観測にかかるため,一般的な評価手段として広範囲に用いられている。
 基礎吸収とは荷電子帯から伝導帯への電子遷移に起因する光吸収をいう。したがって基礎吸収を測定すればその基礎吸収端の波数から半導体のエネルギーギャップを求めることができる。吸収スペクトルの形状(吸収係数の波数依存性)からは半導体のバンド構造が直接遷移型であるか間接遷移型であるかを判断することができる。また,自由キャリア吸収を測定し.そのスペクトル形状をドルーデの理論を用いて解析すれば半導体の有効質量と緩和時間とを求めることができる。ただし,この解析には半導体中の自由キャリアの数が必要である。したがって別途,ホール効果測定法などを用いて自由キャリア数を求めておく必要がある。
 不純物に束縛されているキャリアは光エネルギーを吸収すれば励起準位および伝導体または荷電子帯に遷移する。したがって赤外スペクトルには不純物の基底準位と励起準位のエネルギー差に相当する波数に吸収ピークの系列が観測される。この実験から不純物のイオン化エネルギーを算出することができる。通常の不純物についてはそのエネルギー準位がよく知られているから,不純物の種類を同定することができる。また,光の吸収率から半導体中に含まれる不純物の数を算定できる。
 電子状態間の遷移による光吸収が観測できない不純物の場合には格子振動に起因した吸収スペクトルを測定することが有効である。不純物を半導体内部に導入すると母体構成原子の格子振動が変調され不純物に特有な局在振動が観測される。たとえばシリコン内部に酸素,炭素,窒素などを導入すれば局在振動がおのおの1,100cm⁻¹,600cm⁻¹,960cm⁻¹付近に観測される。これらは実用上重要な局在振動であり,吸収係数から不純物濃度を算出する換算係数も与えられている。このような手法は半導体の評価のみならず,酸化膜,窒化膜などの絶縁膜の評価にも広く用いられている。
 赤外分光光度計は光源,試料室,分光器,検出器,記録計などから構成されており,光路はすべて赤外光に透明な材質を使用している。分光法の種類にはプリズムや回折格子などの分光器を用いた分散型分光法とマイケルソン型の干渉計を用いたフーリエ変換分光法があり,おおよそ200~5,000cm⁻¹の波数域をカバーしている。光源には白熱電球やグローバ(炭化ケイ素)を用い,検出器にはゴレーセル(温度上昇に伴うガス圧力の変化を検知),ボロメータ(電気電導率の変化を検知),熱電対(熱起電力利用)などが用いられている。


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