半導体用語集
酸素析出物
英語表記:oxygen precipitate
超LSIデバイスの製造には、チョクラルスキー(CZ)法と呼ばれる引き上げ法で育成された結品から切り出されたウェハが使用されている。CZ法では多結品原料を石英るつば内で溶融し、その融液に浸した種結晶をなじませてゆっくりと引き上げ、単結晶を育成する。この時石英るつばの内壁からSiOの形で酸素が融解し、99%は融液表面から蒸発するが、残りの1% は単結晶に取り込まれる。CZ結晶では融点での酸素固溶度が2×1018/cm3と高く,結晶化後の冷却過程では過飽和になっている。しかもこの値は融点における点欠陥(空孔や格子間シリコン)の平衡濃度よりもはるかに大きいので、点欠陥は単独で存在できなくなり、酸素原子と結合し、欠陥形成の素過程を作り出す。つまり点欠陥が酸素原子の潜在核や析出核となって微小な酸素析出物(Si02)が形成され、これらは熱処理を施すことで成長・消滅し、条件によっては二次的な格子欠陥を形成し酸素析出物はバルク微小欠陥(BMD)と呼ばれたりする。
酸素析出物について一般的に理解されていることをまとめる。(1 )酸素析出物の実体は結品中に取り込まれた格子間酸素がマトリックスシリコンの中でSi02を形成し、シリコン表面の酸化と同し機構で約2倍の体積膨張を伴う。(2)したがってSiOxは空孔の吸収源、格子間酸素の放出源となる。っまりSi02析出物形成には2個の格子間酸素が取り込まれ、1個の格子間シリコンが放出される。(3)酸素濃度が同じでも、成長条件や熱履歴などが異なると析出状態が変化する。( 4)酸素析出物の成長は第一に酸素の拡散が律速するが、実際には析出物の溶解や析出遅れがある。シリコン結晶中での酸素の析出機構については、従来、格子間酸素が温度で決まるある臨界半径を持った析出物としてランダムに析出する均一核形成モデルと、不純物や点欠陥を中心に酸素以外を寄りどころに析出する不均一核形成モデルがある。比較的低温の850℃以下で核形成速度の酸素濃度依存性を測定すると、核形成速度は酸素濃度や熱処理温度に単調に依存し、長時間の熱処理では飽和することなどから、酸素の過飽程度が大きい低温では均一核形成モデルで説明できる。
一方、不均一核形成モデルを支持するデータとしては市販されている通常のウェハに熱処理を施し、析出酸素量を測定してみると、ウェハによって明らかな差のある場合がある。 これは現実のウェハには炭素濃度や熱履歴に違いのあることが大きな要因であり、この事実は均一核形成モデルでは説明できない。 また高温と低温の熱処理を組み合わせた析出・溶解のデータも不均一核形成モデルを支持し、その核は Si02クリストバライ トであると推定されている。第酸素析出物が基になり熱処理温度や熱処理時間に対応して二次的な格子欠陥が生成される。 その形態や振舞いについては必ずしも完全に明らかにされているわけではないが、一般的には以 下のようになる。800℃以下の低温領域では高密度の微小Si02、さらに長時間の処理で転位対が現われ、800 ~ 1 , 000℃の中温では< 110 >に囲まれた{100}に平行な結晶性の板状クリス トバライト、さらに長時間の処理ではそこから歪が解放されて生成されたプリズマテックバンチングアウト転位や析出物転位複合物、積層欠陥など、さらに1 , 100℃以上の高温では{111}に囲まれた正八面体の非晶質Si02やそこからできた転位や積層欠陥がみられる。これらの格子欠陥の多くは歪を持っており、イントリンシックゲッタリングのゲッタリング源となる。
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