半導体用語集
SCALPEL
英語表記:Scattering with Angular Limitation in Projection Electron-beam Lithography
SCALPELは、米国Lucen Technology Bell研究所から提案されてい る電子ビームを用いた部分一括転写方法で、マスク上にチップ全体のパターンを作り込んでおき、ウェハ面上で 250 μm□の領域ごとに一括転写を繰り返す方式である。高加速電圧100 keVを採用し、ビーム電流30μA、ショット面積250μm口で80 nm程度のレジストパターンを解像したと報告されている。スループットは8インチウェハで30枚/時がえられるとされている。 SCALPEL方式の特徴は、ステンシルマスクではなく、メンブレンマスクを用いることにある。SiN製メンブレン上に、電子の散乱体としてW によってパターンが形成されており、補強のためにImmピッチで梁が作ってある。加速電圧100 kevで加速した電子ビームによってマスク上を照明すると、ほとんどの電子が透過する。この透過電子をレンズによって収束させ、SCALPELアパーチャと呼ばれ丸いアパーチャに通すことにより、散乱体により大きく散乱された散乱電子をカットして高コントラストをえる。1回の露光でマスク上1mm□の領域を均一に照明し、マスクイメージ は4分の1に縮小され、ウェハ上250 μm□の領域として投影される。4倍体のマスクは、8インチウェハを用いて作製する。技術的課題として、クーロン効果によるビームボケの問題、メンブレンマスクの移動手段の問題、メンブレンマスクの温度上昇の問題、近接効果補正をどのような方法で行うのか、などの課題があり、米国を中心に活発に研究開発が行われている。スループットを上げるためには、大電流を用いて露光時間を短くする必要があるが、クーロン効果によるビームボケによって解像性が劣化してしまうというトレードオフがある。解像性とスループットを両立できるよう電子光学条件を最適化する必要があろう。また、8インチウェハで作製されたマスク全域を照明するためには、ビームを偏向するだけではスキャン領域が狭く、機械的移動によって補う必要がある。そのため、真空中でマスクを高速に精度よく移動させる技術が必要となっている。さらに、メンブレンマスクを用いるという点で、熱の問題が懸念される。メンブレン部ははとんどの電子を透過するが、透過できなかった一部の電子により熱が発生し、熱膨張によってマスクが変形してしまう懸念がある。4倍体マスクを8インチウェハを用いて作製するための技術的・コスト的負担が大きいとも考えられている。SCALPELにおける近接効果補正の方法としては、散乱電子を用いた補助露光をパターン転写と同時に行う方法が提案されている。散乱電子のパターンイメージは、メンプレン部を透過した露光電子を白黒反転したパターンイメージであり、これを用いるとGHOST法と同様の効果がえられるとされている。SCALPELアパーチャに輪帯状の開口を設け、散乱電子の一部を通過させ、対物レンズによって散乱電子ビームの広がりが後方散乱電子径程度となるようにぼかし、補助露光を行う。散乱電子ピームの形状によって後方散乱電子の広がりを誤差なく模擬することができるかどうかによって近接効果補正精度が決まるが、これまでのところ本手法による補正実験結果の報告はなされていない。
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