半導体用語集

エレクトロマイグレーション

英語表記:electromigration

 エレクトロマイグレーション(以下.EMと略す)とは,金属中に電流が流れている時に原子が移動する現象である。移動の程度が場所により不均ーに起きるため.一部で不足し抵抗増や断線を起こし,他方では金属が突出し,ショートやリークを起こす。Al単体では現実の配線としては,EMによる劣化が激しいため,Cuなどを添加するなどして,劣化を抑制している。
 EMは,半導体デバイスの故障メカニズムの中で古くて新しいものの代表格である。EMという物理現象が知られたのは古く1861年にまで遡ることができる。半導体デバイスの配線の劣化メカニズムとして問題視され出したのは,それから一世紀後の1960年代後半のことである。その後一貫して代表的な故障メカニズムとして注目されている。それは,EMが半導体デバイスのバスタブカーブにおける摩耗故障期を決める最も重要な故障メカニズムであることによる。
 EMが起きる基本的メカニズムを図1に示す。金属中で最外殻電子を自由電子として放出した後の金属イオンに,自由電子が衝突し,運動量交換を行うことにより,金属イオンが力を受ける。金属イオンは電子からの力以外に,電界から直接クーロン力も受けている。両者は逆向きであり,実際にはこの合力が働いているが,Alの場合,われわれが問題にしている温度範囲では電子から受ける力の方が圧倒的に大きい。力を受けた原子が移動するためには,図1上側に示したような原子空孔などの欠陥の存在が有効である。このような欠陥の存在量は,結晶格子中(パルク中),結晶粒界中,表面,他の物質との界面でそれぞれ大きく異なる。ポテンシャル空間でみると,図1下側に示したポテンシャルの山を乗り越える必要があり,その山の高さは活性化エネルギーと呼ばれている。活性化エネルギーの値は,結晶格子中(Alでは1.2,1.3eVなど),結品粒界中(Alでは0.53,0.55eVなど),表面,他の物質との界面でおのおの大きく異なるだけでなく,これらの相互間の移動においても異なる。
 半導体デバイスの配線に用いられている薄膜は多結晶構造をしており,周囲を絶縁膜で覆われている。したがって,結品格子中での移動だけでなく,結晶粒界中や配線の側面・上下面の界面,ボイド(穴)ができた後のその内部の表面での移動も重要な役割を果たす。
 EM現象を考える際に原子流束を決めるもう一つの大きな要因が,1976年,Blechらにより発見されたEMにより発生する応力に起因する原子の逆流と呼ばれる現象である。EMにより誘起された応力勾配により,EMとは逆向きに原子を流す力が働く。
 それ以外に原子流束に影響を及ぼす重要な要因として,Cuなどの微量添加元素の効果がある。また,式1,2での温度は局所的な温度であるから,温度分布も重要な要因である。また,現実の配線構造での劣化現象を考えた場合は,電流密度の分布や劣化に伴う電流密度分布の時間変化,劣化に伴う温度分布の時間変化なども重要な要因となる。
 さて,次は現実の配線の方からみる。EMによる故障は断線,抵抗増,ショート,リークが主なものである。断線および抵抗増による故障時間の分布は対数正規分布でよく近似できる場合が多く,そのパラメータのメディアン寿命t₅₀および形状パラメータσのうち,t₅₀はBlackの式と呼ばれる次式でよく近似できる場合が多い(Blackの式と呼ばれる理由は「べき乗則」の項参照)。
 t₅₀=AJ⁻ⁿexp(φ/kT)
ここで,Aは配線材料,配線幅,膜厚などに依存する定数,Jは電流密度,nは定数,φは故障現象としての活性化エネルギー,kはボルツマン定数,Tは絶対温度である。nの値は1~3の場合が多く,また必ずしも定数ではなくJなどに依存する場合もある。
 前述の原子流束と現実の配線での故障現象を結びつけるモデルは数多く提案されているが,普遍性のあるものはまだなく,すべてある特定の条件下で近似的になりたっているものである。したがって,現実の配線およびそれを構成要素とする半導体デバイスの信頼性設計や信頼性予測のためには,実験により分布も含めたすべてのパラメータを決めることが必要である。
 ここではAlを主体とした配線中のEMについて解説した。最近使われ始めた銅配線や,従来から一部では使われている金配線についても,基本的な事項はAl主体の配線と同様に考えてよい。ただ,現象の詳細が異なり,現象としての細部での違いが寿命という観点からみると大きく変わってくる場合がある。


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