半導体用語集

低エネルギーイオン注入

英語表記:low energy ion implantation

イオン注入技術は特定の選別されたイオンに高いエネルギーを付与して、被注入固体表面奥深くに物質を導入する技術である。そのエネルギーはおおむね1.5MeV~30keVの範囲で実際に用いられ、多くの半導体デバイス製造のキーテクノロジとして君臨してきた。近年および将来のデバイスの要求に応えるためには浅い接合を形成しなければならないが、その際にエネルギーを下げておおよそ10 kev以下、2keV程度で使用できるように改良したのが低エネルギーイオン注入技術であり、1992~3年頃に登場した。1994 年には5keVのBF2イオンとAsイオンを用いて実質上0. 05μmのCMOSが形成できることが技術的に実証された。この事実は静かなエポックである。CMOSデバイスはn型とp型を作り分けるために、リソグラフイでフォトレジストパターンを形成してイオンを打ち分ける。微細デバイスの草創期(1990年初頭)はドーピング技術がなかったため高温の固相拡散などを利用して研究されてきた。量産時のプロセスをあまり考慮せずに進んできたデバイス研究であったが、低エネルギーイオン注入による実証で、はほ将来にわたって最も簡便なフォトレジストでの打ち分けが可能になったといえる。
最近では「極低エネルギーイオン注入」という分野が発生している。0.1gmより小さいMOSを正確に作製するには1 keV以下の「極」低エネルギーが必要になる。このエネルギー範囲はすでに加速器としてのイオン注入の範囲ではないが,次世代のプラズマドーピング技術の商用化が立ち上げられるまで使用される。1999年6月の VLSI国際会議(京都)を見ても、1 kevという低エネルギーのイオン注 入技術が複数の研究機関で用いられている。 従来とくらべて極低エネルギー領域のイオンビーム電流量は増加した。基本的にイオン注入機は比較的高い電圧(少なくとも10keV以上)で性能が発揮される。加速電圧を下げるとともにイオンビーム電流量が減少してくる。また、イオン注入機は何らかの方法でビームの「一筆書き」を行う。つまりイオンビームをシリコンウェハ上でスキャンしてイオン注入する。このことはウェハの面積が増大 (ウェハ直径が300mm, 450mm)した場合に面積に比例してプロセス時間が長くなることを示している。このような例はステッパ以外にはない。また、イオン注入技術は正確に個数を数えて不純物を導入できる技術として重宝されてきたし、事実でもある。ただし、今後の徴細デバイス作成を考えると、二つの点で不十分となる。
一つ目は、極低エネルギーになった場合のシリコン表面の影響である。シリコン表面には自然酸化膜や意図してつけた絶縁膜、もしくは汚染などが付着している。この厚みが無視できるほど十分に高いエネルギーの時には問題ないが、極低エネルギーとなると、レンジ (飛程、侵入深さ)が非常に浅く、表面近傍に近づくために影響を受ける。したがって、単純にイオン注入であるから、正確に不純物量が計測できるとか、プラズマ注入だから、計りにくいという図式はなりたたない、いずれにしても重要な問題を含んでいるわけである。
また、軽いイオン(典型的にはホウ素)は後方散乱され、表面から再び脱出する。また、重いイオン(典型的にはヒ素)の場合はスパッタリングによる表面の後退が顕著になるが、この際に自己スパッタリングに注意しなければならない。
二つ目は統計的ばらつきである。イオン注入技術はマクロにはイオンの個数を電気的に計数できる技術であるが、対象となるデバイスの寸法が0.1 μm角程度の徴少域になると、その領域に一体何個のイオンが侵入したかどうかは明確にはわからない。個数の平方根に反比例した誤差が生じてしまう。この誤差が無視できない範囲に入って、デバイスの動作特性にばらつきが出るわけである。これに対する回路設計からの対策もあるが、物理的には気相ドーピングによって表面への吸着を制御し、正確にドーピングすることが望ましい。



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