半導体用語集
ワイドギャップ半導体
英語表記:widegap semiconductor, wide bandgap semiconductor
発光ダイオードや半導体レーザの発光波長や,光検出器の感度領域は,用いる半導体の禁止帯幅により決定される。たとえば,フルカラーディスプレイへの応用を考えると赤,緑,青の光の3原色の素子が必要となる。閃亜鉛鉱型を有するⅢ-Ⅴ族半導体は,比較的価電子制御が容易で,特にGaPにZn-OやNという等電荷トラップを発光中心として添加した赤と緑の発光ダイオードが,早くから実用化された。しかし,閃亜鉛鉱構造を有するⅢ-Ⅴ族の禁止帯の最大は,AlPの2.45eVであり,青色発光素子を実現するためには,新しい材料を開発することが必要であった。青色発光ダイオード用の材料としては,Ⅳ族のSiC,ウルツ鉱構造のⅢ-Ⅴ族の半導体であるGaN,Ⅱ-Ⅵ族のZnSeなどが,有望な材料として,精力的な研究が進められてきた。その研究課題は,SiCを除いて特にp型伝導性の制御を実現することにあった。ワイドギャップ半導体においてp型の価電子制御が困難であるのは,自己補償効果によるものと考えられてきた。ZnSeにドナー不純物を導入する場合を例にすると,ドナー不純物を導入するとダブルアクセプタの働きをするZn空孔が自然に形成され,ドナー不純物の導入によって形成された伝導帯の電子を自発的に補償するという現象である。この現象が起こるためには,Zn空孔の生成エンタルビー⊿Hv(Zn)が,2個の電子が,アクセプタに落ち込む時放出されるエネルギーの合計,⊿Eとくらべて小さければよい。今,ドナーとZn空孔へのキャリアの束縛エネルギーを無視すると,⊿Eは,およそ禁止帯幅の2倍となる。このため,自己補償効果は,ギャップの広い半導体ほど顕著に起こると考えられる。このため長い間,ワイドギャップⅡ-Ⅵ族半導体やGaNにおいてp型伝導を実現することは,本質的な困難があると考えられてきた。しかし,分子線エピタキシー法によるワイドギャップⅡ-Ⅵ族半導体の結晶成長中において高周波などにより励起した窒素分子を供給することにより,比較的高いホール濃度が実現できることが明らかにされ,pn接合を用いた青色半導体レーザの室温連続発振も実現された。また,GaNでは,有機金属気相成長法により作製した結晶を成長後熱処理することにより,アクセプタ不純物を不活性化していた水素を取り除くことにより,高いホール濃度が実現され,青色発光ダイオードが実用化された。さらにレーザ発振の報告もなされている。一方,SiCでは,価電子制御には困難がなかったため,青色発光ダイオードとして最も早く,実用レベルになった。しかし,結晶成長にきわめて高温が必要なこと,適当な大型基板結晶がえにくいこと,間接遷移型半導体のため発光効率が低いことなどの問題のため,今日では,むしろ次に述べるトランジスタ用の材料として注目されている。
従来,ワイドギャップ半導体の応用は,ほとんど発光素子に限られてきたが,最近では,高温動作が可能なトランジスタや,飽和速度が大きく高速なトランジスタの開発の観点からも注目されている。前者は,禁止帯幅が広ければ真性領域に入る温度が高くなるので,その理由は明確であろう。後者は,高電界におけるキャリアの移動度は,光学フォノンの放出やキャリアの衝突による電子・ホール対の生成などにより支配されるため,光学フォノンのエネルギーが大きい,すなわち,堅い半導体ほど,また禁止帯幅が大きい半導体ほど,キャリアの飽和速度が大きい傾向にあるためである。
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