半導体用語集
高速化
英語表記:throughput increase
電子ビーム露光装置のウェハ処理能カ (スループット) を向上させること を高速化と呼ぶ。部分一括露光方式あるいは可変成形ビーム方式の電子ビーム露光装置の基本動作は、描画パターンを数μm□のショット図形に分解し、これを電子ビームによって順次露光することで全体のパターンを完成するというものである。各ショット図形を露光する際に は、まず、ビームをオフした状態で成形偏向器を用いて一括露光形状の選択/可変整形ビームの寸法設定を行うと同時に、対物偏向器を用いて試料面上の照射位置決めを行い、その後、ビームを照射してレジストを露光する。このシーケンスをショットサイクルといい、ショット回数だけ繰り返される。電子ビーム露光においては、以上 のような基本動作シーケンスに加え て、ショットサイクルに含まれない対物偏向器の整定待ち、試料ステージの移動、アライメントマークの検出、ウェハの搬送、描画データの回路への転送、ビーム校正、などの動作が行われる。これらの動作に必要な時間をまとめてオーバヘッド時間と呼ぶ。この時、電子ビーム露光に要する処理時間は、次式によって表わされる。
処理時間= (偏向整定時間十露光時間)
×ショット数+オーバヘッド時間電子ビーム露光を高速化するためには、これらの各動作に要する時間を短縮しなければならない。 各偏向系には、ある位置への偏向命令に対して実際に位置が整定するまでにはタイムラグがある。そのため、描画制御上は各偏向動作ごとに、偏向整定時間と呼ばれる待ち時間を入れる必要がある。これを短縮するには、偏向補正計算に要する時間の短縮と偏向回路の応答性の向上を図る必要がある。露光時間は、レジスト感度とビーム電流密度によって決まる。レジスト感度向上は描画時間短縮の必須項目で古くからの課題であるが、高解像性と高感度とを両立することは難しく、現在も研究開発が行われている。また、ビーム電流密度を高めれば露光時間短縮を図ることができるが、電子同士のクーロン反発力が増加してビームのポケが大きくなる。特に1回の露光面積の大きい部分一括露光において顕著であり、解像性が劣化してしまうという弊害がある。これに対して、高加速電圧を採用することでビームボケを小さくした電子光学系の開発や、ポケ分だけビーム寸法を補正して露光する利用技術の検討が行われている。
ショット数低減は、描画時間短縮に最も効果があると同時に難しい課題でもある。可変整形ビーム方式の場合、ショット数は描画パターンに大きく依存する。近年の回路パターンの高細密化によって、パターンを基本図形に分解するとショット寸法を下回る図形が多くなり、最大ショット寸法を大きくしてもショット数低減効果は低い。 一方、部分一括露光方式は、単位領域を一括転写する方式であるから、原理的にはショット数は単位領域内のパターン数に依存せず、ビーム寸法、すなわち一括転写領域を大きくすればするはどショット数低減を図ることが可能である。しかしながら、 すべてのパターンを部分一括露光できるわけではなく可変整形ビーム方式を併用せざるをえないこと、パターン密度が高い場合には上記クーロン反発によるビームボケが大きくなりビームサイズを小さくせざるをえないこと、など現実的には解決しなければならない課題も多い。以上のようなショットサイクルに関わる項目以外のオーバヘッドが処理時間全体に占める割合も、現実には無視できないほど大きい。スループット向上のためには、各項目の高速化を図っていくことが必要である。ショットサイクルに含まれない対物偏向器の偏向整定時間、試料ステージの移動時間、 アライメントマーク検出時間、ウェハ搬送時間、描画データの回路への転送時間、ビーム校正時間、など技術開発項目は多岐にわたっている。
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